ホームに立つたび、あの人が来る方向を目で探している。今日も話しかけられた。手も振られた。知り合いではない。それなのに、毎朝そこにいる。最初は気にしないようにしていた。気にしないようにしているうちに、怖さのほうが大きくなった。まだ何もされていないから、騒ぐほどではない。そう自分に言い聞かせている。恋愛相談の現場で、この形の相談を受け取るたびに私が最初に伝えることは決まっている。あなたの恐怖は過剰ではない。そして、気にしない、という対処法だけは、今日でやめたほうがいい。
最初は気にしないようにしていた。日が経つにつれて怖くなった。
慣れるはずのものが、慣れずに増えている。これは、あなたの心が過敏になったからではない。回数が積み上がったからだ。
一回なら、たまたまだった。二回なら、偶然かもしれない。かなり前から続いていて、今日もあった。この積み重ねを、あなたの体が数えている。
相手が電車を一本ずらしている、という事実
その男性は、あなたが乗る電車の、一つ前の電車に乗る。つまり彼は、自分が乗る電車が来る前に、ホームで待っている必要はない。あるいは、早く来ている。
彼は、自分の電車に乗るためだけにそこにいるのではなく、あなたが来る時間帯に、そこにいる。この違いは大きい。偶然、同じホームに居合わせたのではない。
朝、人がいる場所だから安全とは限らない
他にも人がいる。だから大丈夫だろう。そう考えてきたと思う。
人がいる場所で声をかけてくる人は、人がいることを気にしていない、ということでもある。周囲の目が抑止になっていない。ここは、安心材料ではなく、注意すべき点として見ておいたほうがいい。
なぜ自分なのか、はわからないままでいい。理由を探すのをやめて、対処に移る。
気にしない、という対処法をやめる
気にしないようにする。これは、あなたが選んだ方法として自然だ。多くの人がそうする。
ただ、この方法には、二つの問題がある。
あなたの中に、記録が残らない
気にしないようにする、というのは、覚えないようにする、ということだ。
何月何日に、どんなことを言われたか。何回、手を振られたか。それを、あなたは今、正確に言えないと思う。かなり前から、としか書けなかった。
もし今後、状況が悪化したときに、いつから始まったのか、何回あったのかを聞かれる。そのときに、覚えていない、では、動ける範囲が狭くなる。
無反応が、相手に伝わっていない
無視することで、相手が諦めると考えている。実際には、そうならないことが多い。
こういう行動を取る人には、共通した誤読がある。強く拒絶されないことを、拒絶ではないと読む。目を合わせない。曖昧に会釈する。その場を離れる。それらはすべて、彼の中では、まだ望みがある、に変換される。
これは、あなたが悪いという話ではない。怖い相手に対して、その場をやり過ごそうとするのは、身を守るための正常な反応だ。ただ、その反応が、彼の行動を止める効果は、持っていない。
今日から始める、三つの記録
まだ何もされていない、と思っている今こそ、書き始める。
何を書くか
日付。時間。場所。何を言われたか。どんな動作をされたか。周りに誰がいたか。あなたがどう反応したか。
スマホのメモでいい。今日のことから書く。そして、覚えている範囲で、これまでのことも書く。いつ頃から始まったか。何回くらいあったか。だんだん増えているか。
正確でなくていい。だいたい何月頃から、という書き方でいい。書いてあることと、頭の中にあるだけのことでは、重みがまったく違う。
相手の特徴を、書けるだけ書く
年齢の見当。背の高さ。服装の傾向。持ち物。どの電車に乗るか。どの車両か。降りる駅がわかるなら、それも。
写真を撮ろうとしなくていい。撮ろうとして相手に気づかれるほうが危ない。文字で書けるだけでいい。
一人に話しておく
家族でも、友人でも、学校の先生でもいい。今こういうことが起きている、と一度だけ話す。
誰かが知っている状態を作る。これは、あとから効いてくる。何かが起きたときに、最初から知っている人がいるかどうかで、対応の速さが変わる。
そして、一人で抱えているかぎり、この件はあなたの頭の中だけで膨らみ続ける。
相談していい段階は、すでに来ている
被害届を出す段階ではない、と思っているかもしれない。相談できる段階は、それよりずっと手前にある。
駅員に伝える
これが、いちばん近い場所にある手だ。
改札の駅員に、事情を伝える。毎朝、知らない男性に話しかけられて困っている。特徴はこう。時間帯はこの頃。
鉄道各社は、こうした相談を受ける体制を持っている。駅員が見回りに来てくれることもある。声をかけてくれることもある。
そして、駅に相談したという事実が残る。この記録が、次の一手を支える。
警察相談専用電話
緊急ではないが、相談したい。そのための番号がある。
事件になっていなくても使える。今こういうことがあって、怖い。その話をしていい場所だ。
つきまとい行為については、警察が加害者に警告を出せる制度がある。あなたが被害届を出さなくても、動ける段階がある。まずは、何ができるのかを聞くだけでいい。
学校に伝える
学生なら、担任や学生相談室に話しておく。通学路のことなので、学校が把握しておくべき情報になる。
学校から鉄道会社に連絡が行く場合もある。あなた一人で動くより、話が早く進むことがある。
一人で対処しない。ここが、いちばん大事なところだ。
明日の朝、実際にどうするか
ホームに立つ時間が来る。そのときの動き方を、先に決めておく。
時間と場所を変える
一本早い電車に乗る。あるいは、一本遅らせる。ホームの立ち位置を変える。乗る車両を変える。
不便だと思う。理不尽だとも思う。あなたは何もしていないのに、あなたの生活のほうが変わる。それは間違っている。ただ、今この瞬間の安全を確保することが先だ。理不尽さは、あとで取り返せる。
一人にならない
友人と待ち合わせて一緒に通学する。人の多い車両を選ぶ。駅員のいる場所の近くに立つ。
彼は、あなたが一人でいるときに近づいてくる。誰かがそばにいるだけで、近づきにくくなる。
話しかけられたときの形
反応しない。目を合わせない。イヤホンをして、スマホを見る。
もし、はっきり伝えられる状況なら、短く言う。話しかけないでください。それだけでいい。理由は言わない。理由を言うと、その理由に反論する余地を与えることになる。
ただし、これは無理にやらなくていい。逆上する人もいる。怖いと感じるなら、言わずに、その場を離れて駅員のところへ行く。あなたの安全のほうが優先だ。
二人きりの場所に行かない
呼ばれても、ついていかない。ホームの端に移動しない。人のいる場所に留まる。
大げさかもしれない、という迷いについて
まだ何もされていない。物を渡されたわけでも、触られたわけでも、後をつけられたわけでもない。だから騒ぐほどではない。そう考えてきたと思う。
けれど、あなたはすでに、ホームに立つのが怖い。毎朝、彼の姿を探している。それは、あなたの日常がすでに変わっている、ということだ。
意図がどうであれ、あなたが安心して通学できなくなっている。その事実だけで、対応する理由になる。
FAQ
この段階で相談していいのですか
していい。事件になっていなくても、警察相談専用電話の#9110が使える。つきまとい行為には警告制度があり、被害届を出さなくても動ける段階がある。まずは駅員に伝えるのが、いちばん近い一歩になる。
気にしないようにしていれば、そのうち終わりますか
終わらないことが多い。強く拒絶されないことを、拒絶ではないと読む人がいる。そして、気にしないようにするというのは、覚えないようにするということでもある。あとで必要になる記録が、何も残らなくなる。
何を記録すればいいですか
日付、時間、場所、言われた内容、動作、周りに誰がいたか、あなたの反応。相手の特徴も、書ける範囲で。これまでのことも、覚えている範囲で書き出しておく。写真を撮ろうとして気づかれるほうが危ないので、文字で十分だ。
はっきり断ったら、逆上されませんか
その可能性はある。怖いと感じるなら、無理に言わなくていい。その場を離れて、駅員のところへ行く。伝えるなら、人のいる場所で、短く。話しかけないでください、だけでいい。
駅員に言っても、何かしてくれますか
鉄道各社は、こうした相談を受ける体制を持っている。見回りが増えることもある。そして、駅に相談したという記録が残る。その記録が、次の一手を支える。
大げさに騒いでいるだけではないですか
すでに、ホームに立つのが怖くなっている。毎朝、相手の姿を探している。あなたの日常が変わってしまっている。それは実害だ。相手に悪意があるかどうかとは関係なく、対応する理由になる。

